ディープラーニングの実用例
目次
人間の知能をコンピュータによって再現しようとする人工知能(AI)が急速に普及しています。
活用対象は、スマートフォン関連の技術や自動車、住宅、公共施設などあらゆる分野に及びます。
いわゆるAI関連の技術の中でも、ビジネスでの活用が急速に進んでいるのが機械学習。
大量のデータを元に複雑な現象の裏に潜むパターンを抽出することで、特定の判断や予測に役立てるための技術です。
今回は機械学習関連の中でも、ビジネスでの応用急速に進むディープラーニングと呼ばれる技術の活用事例をご紹介します。
ディープラーニングとは?
従来の機械学習は、データによるシステムの学習方法を指定する必要があったのに対して、2015年頃からビジネス活用が進み始めたディープラーニングは、学習方法自体をも自身で学習することが可能。
さらに、パターンを抽出できる精度も従来の手法を大きく上回ります。
ビジネス活用における現状
大量のデータから複雑な現象のパターンを抽出できるという汎用性の高さのため、ディープラーニングの用途は様々。
自動車の自動運転において障害物や標識を判別するための画像認識や、スマートフォンでの音声検索のための音声認識など、多くの場面で活用されています。
富士キメラ総研の調査(図1)によると、日本のAIビジネス(AIを活用したサービス・コンサルティングなど)の市場規模は、2016年度の約2700億円から、2030年度には約10倍の2兆円に達すると予想されています。
業種別でみると特に公共/社会インフラでの成長率が大きく、同期間の拡大幅は約30倍に及びます。
急速な発展・普及の背景として、インターネットの普及により学習に必要なデータが容易に収集できるようになったことや、コンピュータの性能向上によって、計算速度が格段に速くなっている点があげられます。
さらに、三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2017年の調査(図2)では、日本企業の約80%がAIを活用したいと考えている、もしくは活用予定、活用中であると判明しました。すでにビジネス界隈で大きく注目されているAIですが、さらに爆発的に普及するほどの潜在力を秘めていると言えるでしょう。
ビジネス活用における4種類ビジネスにおけるディープラーニングの活用タイプは、システムの学習に使われるデータの種類によって次の4つに分けられます。
① 画像・映像データ
② テキストデータ
③ 音声データ
④ 数値データ
それぞれの概要を見ていきましょう。
1 画像・映像データを利用したディープラーニングは、学習に用いられる画像データが入手しやすいことから、近年最も発展が進んでいる分野です。
自動運転や工場での不良品検知、顔認識技術などで利用されています。2017年には、IoTや自動運転技術に特化しているPreferred Networksがトヨタから約105億円の出資を受けるなど、現在も大手の自動車企業やIT企業がこぞって自動運転の研究開発に着手。
画像・映像認識技術は日に日に進歩しています。
2 テキストデータはチャットボット(自動会話プログラム)や自動翻訳、SNSデータを分析したマーケティング等に活用されています。
例えば一昔前ではほぼ使い物にならなかった自動翻訳サービスも現在ではかなり高い精度の翻訳が可能になってきています。
そのため、音声データ解析を組み合わせたリアルタイム音声翻訳の実用化が2019~2020年頃に見込まれるなど、ビジネス活用が進んでいる分野です。
3 音声データを使ったディープラーニングの分野では、iPhoneのSiriのように発言内容を文字に変換するシステムや、発話者の感情を分析する音声感情解析技術が登場するなど、研究・実用化が進んでいます。
例えば同分野において日本発のベンチャー企業Empathは、音声感情解析をメンタルヘルスケアに活用。
声のボリュームや話す速さから働く人のストレスレベルを算出するサービス等を展開しています。
4 数値データは、近年ビッグデータとして取得が容易になっていることから従来よりも高い精度で、病気の発症率や株価をはじめとする、様々な値を予測できるようになりました。
例えばYouTubeやGoogle Playなどのレコメンド機能にも数値データを元にしたディープラーニングが使われており、どちらもディープラーニングを使用した機能の導入前と比べパフォーマンスが劇的に上昇したそうです。
ディープラーニングの実用例1:画像データ
自動車の自動運転を中心に普及が進む画像認識技術ですが、農業にも用いられようとしています。
AIと農業というと意外な組み合わせに見えるかもしれません。
しかしもともと農業は非常に人手がかかる作業が多いため、タスクの自動化にたけたAIとの相性が良い分野なのです。
弊社が手掛けた事例を一つご紹介しましょう。ディープラーニングによって、トマトの収穫作業を自動化した例です。
トマトのような作物を収穫する際に、もし機械が実の部分と枝の部分を正確に認識・区別できれば、機械による作物収穫が可能となります。
その際にまず問題点としてあがるのが、実とそれ以外の部分を正確に認識できなくてはいけない点です。
そこでまず、ディープラーニングによる学習データとして作物の画像を収集します。実際に農家へ出向き、トマトやキュウリなどの作物の写真を撮ってきました。
次に撮影した写真を基に、あらかじめ実、枝、幹、蔕(へた)などの部分ごとに区分けしてから人工知能モデルに学習させます。
その後、画像内の作物の部分を自動的に色分けできるまでに精度を上げていきます。いざモデルが完成し、正確に作物の部位を認識できるようになれば、実から何cm上の部分を切り取って収穫する、などといった作業が機械によって可能となってきます。
また作物の収穫だけでなく、実の熟し具合の判別にも活用できます。
正確に実を認識することで、熟し具合を測定するために必要な個所を判別できるため、植物の別の部分を測定して誤った測定につながることも防げます。
さらに葉の部分を正確に認識することで、植物の風通しを良くするための葉かき作業に応用することもできます。
このように、正確に植物の箇所を部分ごとに認識することで農業における多くの作業の自動化が可能となるのです。
日本の農業が人手不足に陥る一つが、農業従事者の高齢化や農業への新規参入の難しさです。
今回ご紹介した画像認識技術を用いて、作業の自動化を進めていくことで、日本の農業が直面する問題を緩和・解決していくことが可能であると考えています。
ディープラーニングの実用例2:テキストデータ
画像データと比べると、テキストデータの活用方法などはイメージしにくいかもしれません。
しかし実際は近年のTwitterやFacebookをはじめとするSNSの普及によって、テキストデータ量が爆発的に増えているため、活用範囲が広がっています。
その用途は様々ですが、今回は我々が手掛けた医療分野での事例をご紹介します。
SNS上の投稿から、投稿した人の症状を判別できるシステムです。
SNS上の何気ない会話や投稿も、テキストデータとして大いに役立つのです。
まずSNS上において、対象に関するトーク履歴やつぶやきをテキストデータとして取得して、人工知能モデルで解析します。
この際、人工知能モデルにはあらかじめ、投稿の文脈も考慮した内容の理解と、どのような内容がどのような症状を表すのかといったことを学習させておきます。
このモデルによる解析によって、そのトークやつぶやきを行った人がどのような症状を訴えているのかを認識できるのです。
この解析結果を用いれば、実際の医療向けのサービスとして応用できます。
例えば患者の症状が緊急を要する場合は近くの医師を、特殊な症状であればその症状の専門医をレコメンドする、といったサービスなどです。
現在、医師の不足がますます問題となり、自分に合った医師を探すことも簡単でない状態ですが、このようなサービスを用いることで、自分の症状に合った医師を自動で見つけることができます。
また、重い症状でなければ家でできる治療法をレコメンドするといった機能も可能です。
さらにレコメンドサービスだけでなく、公害の検知に役立てることも可能でしょう。
例えばある一定範囲の地域で同じような症状を訴える人が増えたことを検知することで、公害が起きている可能性があるとみなし、人工知能が警告を作る、といった具合です。
これらのテキストデータ活用事例は、医療分野の中でも一例に過ぎないほか、法律やマーケティングなどの他分野においても多くの活用方法が多く存在します。
ディープラーニングの実用例3:音声データ
音声データを活用したディープラーニングシステムの特徴として、ユーザーによる利用とデータの処理がリアルタイムで進む場合が多いという点があげられます。
身近なものであれば、スマートデバイスの音声検索・音声操作や多言語の同時翻訳システムなどがあげられるでしょう。
今回挙げる事例は弊社で手がけたコールセンターでの応用例ですが、これもユーザーによる利用とデータ処理がリアルタイムとなった例です。
コールセンターが抱える問題点として起こりがちなのが、経験が浅い職員とベテランの職員との間で対応能力に差があるという点。
その場合、電話の向こうに出た職員のスキルレベルによって対応が変わってしまうということが起こってしまうでしょう。
そこで弊社ではディープラーニングによる解決を図りました。
顧客と会話中の職員向けに、その場に応じた適切な返答内容を自動かつリアルタイムで表示するシステムを作ることで、経験が浅い職員でもより質の高い顧客対応をできるようにしたのです。
まずコールセンターの職員と顧客との間の会話データを用意。
発言内容やトーンを人工知能モデルが認識できるように学習させました。その人工知能モデルをもとに、コールセンターの職員向けの返答表示システムを作りました。
ディープラーニングの実用例4:数値データ
製造業でよくあるディープラーニング活用パターンの一つとして、工場における生産工程の改善・効率化があります。各種のセンサーを設置して生産工程におけるデータを集めることで、不良品が発生するタイミングを予測するなどして、生産効率を上げていくのです。
今回ご紹介するのは、弊社が支援したカメラ向けレンズ生産の例です。
レンズは、カメラの性能を大きく左右する重要な部位であるため、生産基準が非常に厳しく、その厚さや凹凸が少しでも基準と異なるだけで不良品とみなされてしまいます。
まずは生産工程においてセンサーを設置することで、機械の温度や電圧、モーターの回転数をはじめとする数百種類のデータを計測しました。さらに生産機械の状態の変化(気温などの外部要因によって刻々と変わっていきます)や、それらの要因を数値化します。
必要なセンサーデータと製品の検査データがそろったら、それらを元に人工知能モデルを学習させます。それによって、リアルタイムで得られたセンサーデータをもとに、製品の品質を予測できるようになるのです。
こうして出来上がった人工知能モデルを使えば、不良品のできるタイミングを予測することが可能になり、ロスの減少にもつながります。
さらに数値データを元にしたディープラーニングは、今回ご紹介した品質管理だけでなく、生産計画の作成や在庫の最適化にも使えるなど、応用先は様々です。製造業における技術的改革が推進されているドイツやアメリカを中心に、ディープラーニングへの注目度が高まっており、それにつられるように日本の製造業においても導入の試みが増えてきています。
まとめ
インキュビットでは今回ご紹介した事例をはじめ、数多くのディープラーニング案件を手掛けています。AIを使ったサービス・プロダクト開発をご検討されている事業会社の方は、是非一度ご相談ください。
参考文献
[1]「AIビジネス市場規模は2030年度に2兆円、金融分野や公共分野でAI導入盛んに」,日経コンピュータ 2017年1月5日号、p.60
https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atclact/active/16/033100020/040300097/
[2]「IoT・ビッグデータ・AI等が雇用・労働に与える影響に関する研究会 報告書」, 厚生労働省, 2017.03